『フライト』

(3月19日に感想書いてます。)



(『トレーニングデイ』のデンゼル・ワシントンが・・・って古いわ!)


星間飛行ならぬ背面飛行が観たくて観に行った感はありますが、
「まーこういう映画だろうな」とは思っていたんですけども思った以上に地味でした。


最初に書いておきますが、いつもながらネタバレしますので全く情報入れたくない人は観てから読んでいただくことをお願いします。




簡単にいうと奇跡のウルトラテクで飛行機事故の被害を最小限に抑えた!
でもそれを操縦してたのは世界的に見てもハイレベルなアル中のおっさんでした!っていう話なんですけども、
ネタバレとかじゃなくて、息もつかさぬ乗り物パニック映画的なシーンは前半の15分くらいで、
後は操縦士のおっさんが酒を飲み、薬物を使用しながら飛行機を操縦していたことについて認めるのか、もみ消すのかっていうのが映画の大半なんです。


それだけ聞くと「そんなもん観てられっかい!!」と思ってしまいそうなんですが、
これがデンゼル・ワシントンの演技と監督・スタッフ諸々のの手腕で観ちゃうんですよね・・・。

だって何を隠そう本作の監督はロバート・ゼメキスなんですよね!


過去にロバート・ゼメキスが監督した『フォレスト・ガンプ/一期一会』は僕のオールタイムベストと言っても過言ではない作品!
・・・でもロバート・ゼメキスが次にトム・ハンクスと組んだキャスト・アウェイ』を観た時は(真顔)って感じで「無」の感情しかありませんでしたが・・・。

他の作品も「面白かったなー・・・あ、ロバート・ゼメキス関わってるんだ」ぐらいの感じだったんですが、
僕は今回の『フライト』はちょっと今までの作品と別格というか、はっきり本作だけ重みが違うと思いました。


・・・だってこの人『永遠に美しく』とか撮ってたんですヨ!?(失礼)
ブルース・ウィリスが騒いだりメリル・ストリープの首がグルグル回ったりする映画撮ってた人がまさかこんな映画撮るとはねぇ・・・。(失礼)


ま、そんなゼメちゃんなんですが、最近は3DCGアニメばっか撮ってたんですが、そういうのは全然観てませんでした。ゼメちゃんごめん!(大鶴義丹風に)



なので作品群を観て「こういうの撮りたいのねー」とかはわからない監督なんですが(全然監督作観てないというのもありますが)、
本作を観ただけだと「うおおおおおこの監督の他のやつも観てえー!!」って思うくらい、とにかく重くて衝撃的で面白い映画でした!




確かに観てるうちは冒頭以外は地味でじーっくり進む映画だし、「こいつ何がしたいんだ」とか「この映画大丈夫か?」とか思っちゃうんですけど、
この映画を観てやっぱり映画は最後まで観てみないと駄目だなーと思いました。



ほいで具体的な感想なんですが、
先程も書きましたが、冒頭の10〜15分くらいはピンチ!セーフ!ピンチ!!セーフ!!みたいな繰り返しで、ハラハラしっぱなしでした。
悪天候→機体の不調→墜落みたいな流れなんですが、その場にいる様な緊張感で息もつかせぬ展開に手汗が止まらなかったです。
今回デンゼル・ワシントンのキャラは簡単に言うと「悪い奴だけど超ベテランの凄腕パイロット」なんで、不測の事態にも全然焦らず、
的確な指示と素早い判断と体に染み込んだ操縦で危機を乗り越えていくんですが、そんなパイロットの腕を持ってしても
「え?これだけやっても後は運任せなの!?」って感じは「機械が人を乗せて空を飛ぶ」ということの脆さや危険性を改めて考えさせられました。

墜落シーンの終盤を観ていて、そのリアルさに墜落を追体験してしまい(不謹慎かも知れませんが過去に聞いた墜落事故の音声も頭に過り)涙が出そうになりました。
このシーンの出来だけでも素晴らしいと思います。(副操縦士が観客と同じ目線になるように配置されてたのも良かったです)

ただ、飛行機で恐い思いをした人や、「明日飛行機に乗ります」みたいな人は観ない方が良いと思います!(笑)(それくらい臨場感があります)


そしてその後、アンストッパブル』よりもアンストッパブル暴走ベテラン操縦士のせい&おがけでなんとか不時着し、全員無事にはならなかったものの死者は数名。

ここの捉え方、言い方次第でデンゼル・ワシントンが演じるウィトカー機長への印象が大きく変わってくるし、観る人によって分かれると思います。

「全員死なずに済んだ」のか「全員助けられなかった」のか。

完璧な状態で奇跡的な操縦をしても責められることがあるのに、ウィトカー基調は飲酒&薬物を使用して操縦をしてたわけですけど、
ただ誰にも出来ない操縦をしたことも事実・・・。

生き残った乗客からすれば「悪魔に命を助けられた」ようなもんだと思うのですが、これが罪かどうか簡単に判断出来ない所にこの映画の面白味があると思いました。
もし正常な状態で同じ事故に遭遇し、その場合は全員無事に助けられたという証明が出来れば完全な罪になるんでしょうけど、それは「もしも話」に過ぎないですし・・・。
状況を分析しようと一つのことに集中すればもう一つがひっかかるという・・・複雑なパズルの様ですね。


しかしこの映画は更に観客に嫌な物を突き付けてきます。
「あなたはこの機長を観ていて、不快ですか?罪だと思いますか?人間として最低だと思いますか?そうですよね。最低ですよね。
 ではあなたはこの機長とは全く違う人間だと言いきれますか?」と。


本作のウィトカー機長はアル中(薬中)なんですが、人はそれぞれ駄目だとわかっていてもやめられないものがあると思います。
程度が酷くなるとそれを依存や中毒と呼びますが、そんな大仰なものじゃなくても日常生活にはそれに似たものがありますよね。

深夜に食べる甘いものや、ビデオゲーム・・・恋人や友人との関係だってそうなってしまっている場合もあります。
楽になりたい、気持ち良くなりたいと思うのは当たり前ですが、それを自制出来ているかと聞かれるとよほどストイックな人じゃないと
「はい」と即答出来ないと思います。(現にこういうブログ書いている時点で映画中毒なんですが・・・(笑))


先に書いた様な映画からの問いは裏を返せば「お前らも外面引っ剥がしたらこんなんじゃねえの!?」と言う様なもので、
身に覚えがある人程、ウィトカーがやっていることが罪だとわかっていても「ううう・・・」とたじろんでしまうのでは無いでしょうか。


なによりウィトカーのあのズルズルな

「ダメだダメだ」「やっぱ飲みたい」「ダメだダメだ!」「でも飲みたい」「ダメだダメだ!!」「もうどうでもいいや!!」

という
これでもかというくらいの繰り返しを観ていると目も当てられないというか、「頭ではわかっていても俺にはあいつを罰せない」と思ってしまいました。

そういう風にウィトカーが自分の罪と対峙するのと同じように、観客は自分の中の彼と同じような部分と向き合うように出来ているんじゃないのかと思いました。


それにしても禁欲からのやっぱ飲んじゃうの繰り返しは、辛いけど苦しいけどちょっと気持ち良いみたいな一種のプレイみたいになってましたねー。だから根深いんでしょうけどね。


終盤でウィトカーは前に行っても後ろに行っても地獄な状態になるんですが、思っていたより簡単で、それでいてわかりやすく納得出来る答えに辿りつくのですが、
悪いとわかっていても心境がわかるだけに少し「立派」と思わざるを得なかったのも事実でした。


観終わった後は「アル中のおっさんが更生していく映画かと思って観てたら、むしろこっち(観客)がセラピー受けちゃってました!」って感じで
「俺も罪(自分の中の悪い所)を認めなきゃなー・・・」と反省させられるような映画でした(笑)。


まぁ人によって様々な感想を持つ映画でしょうが、
「ハラハラする墜落シーン」・「おっさんが罪かどうか考えさせられる」・「自分の中の依存・中毒と向き合える」という三層もあって大満足ですよ!(層では無い)
一本の映画でこれだけ楽しめたら良いと思えるような内容でした。



〜補足など〜
副操縦士君は本当にそれで良いのか・・・!!(本人がそれで良いなら良いけど)
ジョン・グッドマン!!『アルゴ』でも良かったし、何より狼の死刑宣告での
クソ銃器屋ジジイ役が最高のジョン・グッドマン!!今回もグッドマン!!(言いたいだけ)
デンゼル・ワシントンの顔の力って大きい
デンゼル・ワシントンって正しいか間違ってるかは別として自分の中の「信念」を貫く役が上手いよなぁー
 大して出演作観れてないけど、『マルコムX』しかり『アメリカン・ギャングスター』しかり『アンストッパブル』しかり。
・細かいシーンも凄い印象深くて、薬中女のニコールがポルノ映画監督の売人に薬をねだりに行く所とか、病院でのタバコを吸いながらの会話シーンとか、
 ホテルで酒見つけちゃう無駄なしずる感たっぷりシーンとかも良かった
・映画の一番最初、CAとやっちゃったホテルでのスニッフィングする時のアングルとか、デカいボトルの酒を買った直後に直接口付けて飲んじゃう所とか
 愉快な・・・おかしな・・・いややっぱバカな絵面もいっぱいあって満足!
・これが理由かはわかりませんがあのスニッフィングの「んんーー!!これでもかーー!!」というデンゼルの顔が出た瞬間にオスカー像をぶん投げてるようなもんなんで、
 アカデミー賞は受賞出来なかったみたいですが、大丈夫です。(勝手に納得)