『欲望のバージニア』



(構図的には『アイアンマン3』のヴィラン対『ダークナイトライジング』のヴィラン


この前に凄く雑な感想を書いてしまっているので多少の心苦しさはありますが、この映画に関しては丁寧に感想を書いていきたいと思います。


この『欲望のバージニア』こと原題『LAWLESS』は、予告編だけでは伝わりにくいですが、
映画の内容は暴力的なのに対して、物凄く繊細な心配りが行き届いている素晴らしい作品です。

先に書いておきますが、この邦題の意味が最後までわからなかったので今回はタイトルを書く時、『LAWLESS』と書きます。


映画や他の表現媒体でもそうだと思いますが、「現代」というもの以外を描く時、センスがあるかは別として
その時代の物に全てを統一しなければならないのですが、なぜ統一しなければ「ならない」のかというと
そこにブレがあるとその作品に気持ちが入って行かないと思うのです。
例えば「国」でもそうなのですが、度々散見されるようなアメリカ人から見た日本を描いた作品が抽象的なアジアのイメージ(舞台は日本なのに中国語の看板があったりする)だったりしますよね。
それはそれは面白いのですが、実際の日本という本来の設定とはまた別の想像上の国として認識してしまうと思います。
特に実際にあった事件などを元に映画化をする時に、時代考証はもちろんですが最低でもその時代「風」の物でも良いから揃えなければならないわけです。

まずそういった意味でこの『LAWLESS』は素晴らしいなと感じます。
監督のジョン・ヒルコートの作品を観たことが無かったのですが、『レッド・デッド・リデンプション』という西部劇のゲームを「監督」した方だそうで、
それを知って今回の作品の出来も腑に落ちました。

レッド・デッド・リデンプション』は1910〜14年頃のアメリカ(・メキシコ)を舞台にしているのに対して、
『LAWLESS』は1920〜33年頃のアメリカを舞台にしているので、時代的には微妙に違うと思うのですが、
おそらく『レッドデッドリデンプション』を楽しんだ方が『LAWLESS』を観ると「なるほど同じ監督だな」と思う方が多いと思います。
それは決して衣装が同じだとかストーリーが被っているだとか言うことではなく、徹底的な世界観の統一やその説得力、自然の風景の描写などが共通しているからなんです。

ただ当時の品を揃えているだけでなく「その時代の話だと言うことを自然に納得させる」能力の高さと言いますか、
誠実に物語を完成させようとしているなと言うことが伝わってくるんですよね。


特に僕はキャラクターが移動している時にに映る、穏やかな風景が素晴らしいと感じました。
また主要キャラクターのボンデュランド兄弟も基本的には穏やかで、無駄に他人に迷惑をかけたり威嚇したりしないキャラクターなので、
なにか事が起こらない限り非常に穏やかな感じ(作品自体も)なのですが、だからこそなにか事が起こった時の暴力性が高まるんです。
味方側も敵側もやることがえげつないのですが、それまで穏やかだったのにいきなりとんでもなく暴力的なシーンになるのでショックが際立っていました。

メリケンサックで殴る」という暴力的なシーンとしては安直過ぎて最早観ることが無いようなシーンも、
そういった緩急の付け方と、撮り方の素晴らしさで目を瞑りたくなるような新鮮なショックシーンになってました。

またキャスティングも絶妙でした。
のび太より負け犬顔でお馴染みのシャイア・ブラーフは三男役で前半期待通りの負け犬っぷりでしたし、後半は期待を越える活躍で観客の心をつかんだと思います。
そして何より次男役のトム・ハーディがこの作品では一番輝いていたと思います。佇まいの肉体的な説得力や、声、喋り方で
不器用だけどしっかりしてて怒らせるとおっかない。でも優しいという役を見事に演じてたと思います。
話す時の「声」というより、動物的な「唸り」が魅力的でした。

唯一この作品ではっきりと狂人として登場する特別取締官役のガイ・ピアースもたまらなく嫌な存在で、
何が嫌って表向きは取り締まりとして行っているけど、ふとした瞬間から突然感情的な行動に走る所が嫌でしたよ。


あと拷問シーンとかも新鮮かつ最高に嫌なシーンでしたし・・・熱したコールタールみたいなやつでギャーみたいな・・・。
禁酒法というものを取り扱ったのも、酒というものの危うさがどちらに正義があるかをわかりやすくしてないことで
始まった時点から「主人公が正義で相手が悪」という構図にせず、観客も考えながら観れるので退屈な作品にしていない要素の一つだと思います。



ただ、アウトローの映画を期待して観に来た方は、先に述べた穏やかな雰囲気が退屈に感じてしまうと思うので、
「(期待したようなシーンが少ない)スカスカな映画」と言う風に感じてしまうかもしれません。
ゲイリー・オールドマンが演じるマフィアのボスも、あまり関わってこないので肩透かしに感じるかもしれません。
ただ僕は末っ子の視点で描かれた作品だと思うので「こんな人も街にはいたな」とか「兄ちゃんは勝手だけど頼りになったな」とか
過去の郷愁に浸るような感じなんじゃないかなと感じました。

ジョン・ヒルコート監督の『レッド・デッド・リデンプション』、そして本作『LAWLESS』は一見違う様で
どちらも「ある時代の終わり」を描いた作品なので、僕はよりそういう映画なんじゃないかと思ってしまいます。


似たような設定の作品はあるとは思いますが、僕の中ではそれとは一線を画す作品でした。
同監督の『プロポジション -血の誓約-』も借りたのでこれから観てみたいと思います。


〜補足など〜
・他の人の感想を観ようと検索してた時、ゲイリー・オールドマン全然ダメだった」とかいうつぶやきを観てしまったような気がするが、
その人とは完全に意見が合わないと思う
・むしろ近年実直なキャラや、ベテランの役が多かったから「まだまだ現役バリバリだぜ!!」って姿が最高にカッコ良かったけどなー
・あの「街にいる伝説的なヤバい人」感はたまらない
・ていうかゲイリー・オールドマンがブチ切れながらスコップで人を全力で殴るんだよ???そのシーンだけで万歳三唱では???
トム・ハーディ萌え映画としても素晴らしい
「切れるトム・ハーディ」「覗くトム・ハーディ」「唸るトム・ハーディ
・もう『ワイルド・スピード』のドミニクかと思うくらいの愛せるキャラ
・長男のポンコツぶりも嫌いじゃない!
・こんなに満足させてくれた上にドリフみたいなオチ(次男の散歩のシーン)まで付けてくれて本当に最高だった
・どれくらい最高かと言うとジョン・ヒルコートに会ったらその場で喜んで一万円あげたくなるくらい
ミラ、ミア・・・ワシコ・・・ワシカみたいな名前の人も可愛かった!
・早くBru-ray出て欲しい!